|
第72回地域ゼミ |
| 今回講師になっていただいたチャド・ウォーカーさんは九州大学の環境心理学を専攻している学生で、昨年まで学生ボランティアが運営している「カルチャー・カフェ」の店長だった人である。昨年私どもが行った個族の研究で、個族化社会では若い人たちがネットワークを形成しやすくなる場が必要になるのではないかと考えていたので、「学生の居場所」というのもその場の一つになるかもしれないと思い、カフェの取り組みの話をしていただいた。 ●カフェを始めるきっかけはアメリカでの原体験 チャドさんはアメリカ出身で、日本に来る前はテキサス大学に通っていた。そのときには、学生の楽しめる施設もあれば、自分の居場所といえる場所があった。しかし、九州大学に初めて来たときは期待していたような、居心地のいい空間はほとんどなかった。 ちょうどそのとき九州大学では大学院制度が大きく変わり、建築や社会学、また環境心理学という多岐にわたる分野を勉強している学生と一緒に研究する環境ができ、また学生のベンチャービジネス活動などを九大総長の裁量経費による助成で支援する「チャレンジ&クリエイションプロジェクト(以下C&C)」が実施されていた。 <カルチャーカフェの年表> 1998年12月〜 箱崎キャンパス留学生センターの前でオープン カフェを始める。 ボランティア数:5人 開店期間:2週間 1999年11月〜 同じ場所でオープンカフェを開く ボランティア数:約40人(他の学科も参加) 開店期間:11月から12月24日まで 2000年10月〜 同じ場所でオープンカフェを開く ボランティア数:約30人 (週に1時間のボランティアもいればほぼ毎日来るボランティアもいる) 開店期間:約2ヶ月 2001年10月〜 大学からの依頼により箱崎キャンパスに新しく 建った21世紀交流プラザの中に出店 開店期間:1年中(学校開講期間中) 2002年10月〜 21世紀交流プラザに入って2年目 カフェのNPO化の検討を行うが、今のまま継続 していくことを決める 2003年4月〜 新しい店長と副店長への受け継ぎを行う 彼の指導教官である南教授が何人かの学生を集めてそのC&Cの話を紹介した際に生まれたのが、カルチャーカフェプロジェクトだった。 ●多様な人の支えでカフェが発展 私も学生時代に南教授の授業を受けていたので、カフェがあることは知っていたのだが、当時のカフェは留学生センターの前にあったので、留学生のたまり場のようでなかなか入れなかった。ただ手づくりの露店のオープンカフェだったので、雰囲気はよさそうだなと感じていた。その露店はプロジェクトに参加した建築学科の学生がつくったのだそうである。 カフェは、初めの年は留学生センターの前で2週間ほど開店する程度のものだった。しかし、それから毎年カフェを継続していくうちに、当時の九大総長の発案により、大学内に出来た21世紀交流プラザという学生の交流拠点に出店することになる。手づくりの露店から施設の中に移ったことで、年間通してカフェをオープンすることができるようになった。 ●カフェの継続に向けて試行錯誤を行う ゼミの参加者は大学関係者を中心に10人ばかり集まったのだが、みんなが一番関心を持っていた のは、どうやってカフェの継続性を担保させるの かということだった。 それはカフェでも大きなテーマになっていたようで、2002年には2人のボランティアスタッフがカフェのNPO化を検討している。しかし、ボランティアの入れ替わりが激しく、しっかりとした組織にすることがカフェには合わないというような気分があった。また専属のアルバイトを雇ってみたものの、まったく同じ内容の仕事をしているのに、収入が10万円程度ある人とまったくない人がいることで、メンバーの関係がギクシャクしてしまい、結果としてボランティアによる運営がそのまま続いている。 経営面でもカフェにはほとんどお金がかかっていない。場所は大学から無償で借りているし、人件費もゼロである。コーヒーをつくる機材もUCCから無償提供されている。支出はコーヒー豆やスナック菓子代程度のものである。固定費がかからないので、最低限必要な売り上げというものあまり意識しなくてもいいようだ。そのためコーヒーの値段は自由に設定できるのだが、大学生協や自動販売機の価格よりも安くしすぎるのも問題があるということで150円にしている。 儲かったお金は、カルチャーカフェが主催でバーベキューパーティーや七夕などのイベントを行う際、ボランティアスタッフの参加費などに当てているぐらいのものである。 ●スタッフがおもしろいこと楽しめることを企画していくことがカフェの継続の鍵ではないか ボランティアスタッフの学生はなぜカフェに参加するのだろうか。カフェが好きだから、人との触れ合いがあるから、授業の合間の暇つぶしになるからだとか参加の理由はさまざまだが、まずカフェがスタッフ自身の楽しめる場所、居心地のいい場所になっているからだと思う。参加していておもしろいから続いているのだと思う。 いつでも好きなときに参加できるといった“オープンでゆるやかなつながり”が学生の気分にあっているのかもしれない。しかし、それは同時に辞めやすさにもつながっている。ボランタリーな取り組みだけに、スタッフが飽きてしまっておもしろいと感じなければやめてしまう。ここに参加していたら何かおもしろいこと、楽しいことがある、また自分もこんなことを企画してみたいと思うような雰囲気があれば、カフェが長続きするのではないかと思った。 ●個族化社会にはネットワーク型の居場所がもっとたくさん生まれるといい この地域ゼミを行ったせいか、最近雑誌や新聞等で居場所という言葉をよく目にする。夜間学校が孤立した若者の居場所になっていたり、リストラされたサラリーマンの居場所がなくなっているといった内容である。 昔は家族・地域・会社といったところに多様なつながりがあり、それぞれに居場所があった。しかし、現在はそのどれもが弱くなり、他人と何かに共感したり、一緒にものごとをする機会も少なくなっている。カルチャーカフェのようなゆるやかなネットワーク型の居場所は、そういった従来の居場所のサポート機能を果たしているように思う。また学生時代にそういったネットワーク活動に参加していれば、社会に出てからも自分の居場所は見つけやすいのではないだろうか。個族が孤立してしまわないためにも、学生時代にネットワークに慣れる“ネットワークぐせ”をつけることがこれから必要になってくると思う。いろんな学生が参加しやすい多様なネットワーク型の居場所がもっと生まれてほしいと思った。 (ほんだ まさあき) |