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蔵を使って、町中でホタルを見られる環境づくり |
| 昔からある建物のよさを見直して、地域の資源として活用していこうという話はよく聞く。私は歴史的建造物の保存とか、町並み環境整備などの取り組みについて詳しく知らないが、「蔵がゲンジホタルの飼育場になっている」という話を聞いて、他でもやっているのかなと関係する本を2、3冊ほどみてみた。載っているのは蔵の中をきれいに改装して飲食施設にしたとか、ギャラリーや博物館、資料館などに活用しているといった華々しい話ばかりで、「蔵でホタルを育ててます」という話は載っていなかった。あまり模範的な蔵の活用策ではないかもしれないが、地域のアイデンティティになる取り組みだなと思ったので紹介したい。 ●ホタルはもともと先人が持ち込んだもの 蔵でホタルの幼虫を飼育しているのは、山口県山口市にある一の坂川というところである。ホタルといえば、山裾の農村を流れる小川のようなところにいるといったイメージがあるが、一の坂川は住宅街の真ん中を流れている。「なんでこんなところにホタルがいるのだろう」と思って、一の坂川流域マップというパンフレットをみると「大内氏24代弘世の時代(1363年頃)に京より迎えた姫君の都を偲ぶ哀愁を慰めるために宇治からホタルを取り寄せ、それが山口に土着したもの」とあり、「土着のゲンジボタルでは数が足りなかったので昭和41年より山口県農業試験場でこのゲンジボタルの飼育、放流が始まりました」とある。どうやら先人が持ち込んだものをずっと維持してきているらしい。昭和10年には天然記念物にも指定されている。 ●土蔵がホタルにとっていい飼育環境になっている 現在ホタルの飼育をされているのは、山口ふるさと伝承総合センターの平野愼吾さんという方である。なんで蔵でホタルを飼育するようになったのかを聞くと、一の坂川とホタルにまつわる出来事がずらりとのった年表を見せて下さった。 それを見ると、農業試験場が毎年10万匹単位で行っていたホタル幼虫の飼育が昭和57年に中止になっている。それから3年ほどホタルの飼育は行われなくなってしまったのだが、平野さんの話だと、当時一の坂川に近い大殿小学校の先生で、ホタル飼育の経験がある岡迫さんという方が、コミュニティー研究会というのを立ち上げて、小学校でゲンジボタルの発生状況と生息環境の調査を始めた。その際に、川の近くにあった野村酒場の土蔵を飼育所に使い始めたそうである。土蔵は室温の変化が少なく、ホタルの飼育環境にも適していた。 その後、ホタルの飼育を地域で受け継ごうと地元の人によって「大殿ほたるを守る会」がつくられ、また蔵の周りも山口ふるさと伝承総合センターとして整備されている。 現在でも大殿小学校の児童たちがホタルの幼虫の餌となるカワニナ取りを手伝ってくれており、毎年17,000匹程度のホタルを育てるために多くのカワニナを一の坂川から取っている。 ●川が地域の自慢やデートスポットになっている 川の様子を眺めに外に出ると、ちょうど学校の下校時刻だったので、川沿いを下校する中学生たちを多く見かけた。桜並木と石垣のある川はなかなか風情がある。ホタルが見られる区間には歩道橋が3本も掛かっており、ホタルが舞う時期になるとカップルの格好のデートスポットになっている。 ホタルが最も多い週末(これは天候の状態や川の水温などから予測できるのだそうだ)には、ほたる祭りが行われ、婦人会によるバザーなども行われている。一の坂川やホタルが地域の自慢になっている。 それでもホタル飼育の後継者がいなかったり、町が高齢者ばかりになってしまっているそうだが、地元を出ていった若い人たちに、盆や正月だけでなく、ホタルを見に帰っておいでといえる環境があるのはいいなと思った。(ほんだ まさあき) |