|
企業と技術協力で障害者の雇用の場をつくった |
| 福岡県糟屋郡須恵町に、平成15年4月に建設された須恵町ボランティアセンター内に知的障害者が働くパン屋さん「福祉工房亀のパン」がオープンした。須恵町は昭和54年に地方自治体では初めて健康課(現在は健康福祉課)が創設され、心身ともに町民の健康を図ろうと食生活とスポーツを中心としたまちづくりに取り組んできた町である。 ボランティアセンターの福祉工房は1階にパン工房、吹き抜けの2階には工房で作ったパンの販売と飲み物が飲める「ベーカリーカフェれいんぼー」がある。パンは宅配も行っている。1階には、町が運営する自然食普及センター(手作り味噌や健康に良い食品、体に優しい生活用品が販売されている店)があり、店内から隣のパン工房の様子がうかがえるつくりとなっている。また、老朽化のため、合わせて建替えられた福祉センターが隣接している。 障害者の働く場を町が作ったということで、どのような運営をされているのか、須恵町健康福祉課と委託運営を任されている社会福祉協議会(以下社協)の方にお話を伺った。 ●町に障害者の経済的自立ができる就労の場を作る 須恵町では、平成12〜13年度に「共生のまちづくり」として福祉事業や福祉活動のネットワークを図り、住民参加の福祉のまちづくりを進めようと町民の40人委員会を作った。2年間の委員会の中で障害者の地域での就労支援という課題が挙げられており、平成15年には、様々な福祉機関、活動団体の活動拠点としてボランティアセンターが建設されるので、その施設内に障害者の就労の場を作ることになった。 計画当初から、障害者年金とここの給料で将来的に自立につながるよう、県が示す最低賃金を支払えるような職場づくりを目指すことが前提とされた。「パンだったらその日じゅうに食べきれるし、またお腹がすけば食べたいと思う」ということからパン屋が良いのではということになった。 40人委員会では2年目に障害者が働くパン屋の視察に東京に行った。また、健康福祉課はパン製造の技術協力先を探すため、おいしいという評判のパン屋を調べては、試食を繰り返したそうだ。その結果、石焼き窯で焼かれるパンがおいしいと好評で長蛇の列ができる「パン・ナガタ」に技術提携をお願いすることになった。何度も足を運び協力先になってくれたとのことだ。 「亀のパン」は町から社協への知的障害者就労支援事業の委託となっている。「パン・ナガタ」とは社協が技術協力の契約を結んでおり、パン職人の派遣とコンサルタント料を支払うという内容である。派遣されたパン職人3名の給料は、その委託費から支払われる。 ●働くことで気づき、積極的になっていく パン工房の設備は町の補助で行い、配達に使う車などは宝くじの助成金で購入された。 就労者の募集は、町内に住む知的障害者で自分で来て帰れる人、制服の着脱、挨拶、返事ができることを条件に面接が行われた。30人の応募があり養護学校を卒業したての18歳〜30歳後半の8人が採用された。8人は月曜日〜土曜日の9時〜16時の固定勤務体制である。 「亀のパン」全体の人員体制は、「パン・ナガタ」から派遣されたパン職人3名とトータルマネージャー、経理、ボランティアのジョブコーチが11名、パン製造部門3名、その他作業のパートさんと合わせて30名によるシフト体制になっている。 売上げ管理など現場のマネジメントはトータルマネージャーの方と経理担当の方がされる。トータルマネージャーの方は40人委員会のメンバーだった方で、以前は主婦だったが、委員会の視察に参加していくなかで「私がやる」と手を挙げられたそうだ。また、パン製造部門の3人の方は、当初からパンづくりの技術習得ということで募集ををされた。 仕事は製造、梱包、宅配、喫茶の4つに別れており、本人の希望と適性で決められた。製造では、基本的なパンを作るのは職人の方で、器具洗い、パンの砂糖づけ、チョココルネのチョコクリーム入れなどをする。梱包では、できあがったパンの袋詰めをし、配達伝票をみながら仕分けをする。 配達は午後からで、宅配指導員とペアで車にのって近隣の町役場や町内の企業などに配達に行く。取材当日もちょうど配達から帰ってこられたところに出くわしたが、運転されていた方の話によると、定年退職された男性の方で何か役に立ることはないかと思った時に車の運転ならできると応募されたそうだ。喫茶である「ベーカリーカフェれいんぼー」では、ショーケースに並んでいるパンと飲み物の販売をする。ケースの中から注文のパンを取ったり、飲み物を作る。パンは30種類の銘柄を覚えて接客をする。 ジョブコーチは、ボランティアセンター完成とともに立ち上がった知的障害者支援ボランティアグループ「レモン」のメンバーで、ここに仕事をしに来ているという意識づけや作業のサポートをされている。働きだして2か月たったが、シールを切る時に斜めに引っ張ればうまく切れると気づいたことで作業が早くなったことを喜んだり、はじめは指示を待っていたがボランティアのジョブコーチに「次は何をしましょうか」と聞くなど積極的になってきているそうだ。仕事帰りは仲間と並んで帰っているそうで、少し具合が悪くても出勤するくらい仕事が楽しい様子とのことだ。 ●おいしいパンにリピーターが多い。 4月にオープンして2か月。人気のパンはメロンパンと食パンで、リピーターが多く、月の売り上げは500万円を超えたそうである。隣設している福祉センターのお風呂の利用者が200人/日で、お風呂に入って「亀のパン」に寄る方も多く、福祉センターの休館日の玄関には「ほたるの湯は休業ですが亀のパンは営業しています」という立て看板まで置いてある。4月から5月まで働いた初給料は、目標の最低賃金に及んではいないものの時間給にして500円程度の給料が出た。 ●これは第1歩。 印象的だったのは「まずは、軽度知的障害者の働く場としてこれを定着させること。様々な障害をもった方の支援、次のステップへつなぐことを意識して一歩一歩確実に進みたい」という言葉だった。現在「亀のパン」は町から社協への事業委託となっているが、いずれはここの売上げだけで全てが支払えるようにという意識で経営していくという意気込みが感じられた。 募集の際30人の応募があり、ここに採用されなかった方については、個別の支援にあたっている。この町の取り組みが障害者の企業支援のモデルになることも期待されている。 町がこのような場をつくったことで、そこで働く人や地域の新たな可能性が引き出されていっているように思った。 (あいこう みほ) |