<よかネット>No.62 2003/3
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■反逆の獅子 |
| ある人に「絶対開かない金庫を鍵を使わずに中の物を取り出すにはどうすればいいか?」と問われたことがある。そのときは質問の意味がわからず、金庫を爆破すればいいとか、堅い金庫同士をぶつけ合えばいいなどと方法論ばかり言った覚えがある。答えを聞くと「形あるものはいつかなくなるから、金庫がなくなるまで待てばいい。そうすれば中の物が取り出せる」ということだった。 これはとんちなのだが、なかなか奥深い答えである。私の答えはいかに一瞬の内に開けるかという手法しか頭になかったのだが、もっと時間という幅を考えなさいという教えのよう私は感じだ。海外留学などをして日本の外から客観的に自分や自分の見つめることも大事だが、自分の国の歴史や文化をもっと知ることも同じように大切なのかもしれないと社会人になってようやく気がついた。(梅棹忠夫さんが「日本とは何か」という著書の中で“アイデンティティ”を“歴史的連続性”といっていることにもかなり影響を受けた。) この本の主人公である浅原健三という人の生涯を通じても、昭和初期の日本がどのような社会になっているかが非常によく伝わってくる。これは桐山さんが記者であり、歴史的事実を丹念に調べられて書かれているからだと思う。 恥ずかしながら、私は今まで浅原健三という人物すら知らなかった。大正9年の八幡製鉄所の大ストライキが起こった際、争議を指導したのが彼であり、そのことを書いた「溶鉱炉の火は消えたり」という著書はあまりにも有名なのだそうだ。私の歴史についての視野は、受験勉強で満州事変などの年号を覚えまくったあたりで止まっているので、歴史年鑑や百科事典などから彼が活躍した当時の世相や出てくる人物が何をした人かを知ることから始めなければならなかった。 ただこの本の主眼は、大ストライキのことではなく、日中戦争の勃発を防ぐために彼がコーディネーター役、マネジメント役として奔走したところにある。彼は“とにかくケ小平に一度ギャフンと言わせたい”という程度の短期的な目標しか持っていない軍部が戦争をはじめようとしているのを何とかやめさせようと走り回るのである。中国の領土は広く、追いつめることができないので戦争は必ず泥沼化する。疲弊してしまえばロシアの脅威に備えられないという長期的で常識的な視野をもっていた。結果として戦争を止めることはできなかったのだが、彼の行動はさまざまなことを教えてくれる。 ことを成すためには長期的で常識的な視野を持ち、モチベーションを失わず、コーディネーター役、マネジメント役として動き回ること。まさにネットワーク型人間のかたまりのような人である。 (本田 正明) |
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