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今年6月、第3セクター研究学会(会長 金田昌司教授・中央大学経済学部)の九州大会の開催に向けて、その企画と事務作業を当事務所が行うことになった。
●“公民協働で儲かる地域経営”セミナーのねらい
大会のテーマは第三セクターそのものの研究というよりも「地域経営」という拡がりにした。今、日本は巨大な財政赤字を抱え、雇用不安が懸念されているが、地域社会全体から見ても、第三セクターというよりは、地域でどんな産業を興し、どのように雇用を確保し、どんな楽しみを作っていくかという「地域全体の将来像」に関心が向かっていると考えられたからである。
そして事例を聞きながら一緒に考えるセミナー形式の集まりとした。
●九州各地から総勢70名の参加
10月5日の大会当日、会場である博多区の三鷹ホールには総勢70名以上が参加した。参加者は自治体職員、大学の研究者、第3セクターの支配人、NPOの職員などで、福岡県下を中心に九州各地からの参加があり、宮崎県椎葉村や長崎県五島の小値賀町などからの参加もみられた。
この日に向けた参加呼びかけも、@大学の研究者だけではなく、地域づくりに関わっている人に幅広く呼びかける、A県下の市町村からも参加して欲しいため(財)福岡県市町村研究所から呼びかけていただく、ということを当初から決めておいた。
●さまざまな現場から地域の豊かさづくりの実践報告
講師をお願いしたのは次の6人の方々である。
一番目は広松伝氏。昭和52〜60年の間、柳川市で荒れた堀割を市民と行政が協働作業で再生に取り組み、クリークのまちとして注目を集めるとともに、川下りをはじめ観光業での雇用を大きく伸ばしたあゆみについて(本誌3号や平成4年度NIRA研究レポートで紹介)。
二番目は池永千年氏。日田大鶴農協で一点突破型農業を通して、山間地の高齢者ばかりの地域でも成り立つ農業を築いたあゆみについて(本誌53号で紹介)。
三番目は今村巧児氏。太宰府市で店舗撤退後の建物を壊さず、残存価値を生かしリニューアルする方法で駅前の賑わいを維持したとりくみ(本誌48号で紹介)。
四番目は杉谷岩彌氏。地域に密着した医療・福祉の営業活動と無理のない少しずつの開発で、地域に喜ばれて、200名以上の雇用を創出したとりくみについて(本誌34号で紹介)。
五番目は加留部貴之氏。NPOサポート事業を行うNPOの活動を通して、公民協働の見通しについて。
六番目は世利洋介氏。今回の学会開催にあたって後援していただいた(財)福岡県市町村研究所の顧問として、これからの自治体と地域の協働について。
各講師の持ち時間は一人30〜40分で、それぞれ各地の取り組みについて報告が行われた。ここでは、誌面の関係上全ての紹介はできないが、それぞれの報告から印象的な話をとりまとめた。
【広松伝氏】
・堀割浄化の作業をはじめる前、すでに昭和52年春に は、市内部のプロジェクト会議により埋め立て計画 まで決まっていた。「今までの城堀浄化は行政が金を 出しても、すぐに元のもくあみだ」、「柳川市の城堀は 農業用水であり観光の資源だと思うが、埋まって使 えない城堀は整理した方がいい」、「周辺の町も汚れた 堀を埋めて有効利用している」という意見は多かった。
・しかし、埋めることは柳川の長い水との付き合いを 全て断絶することになる。文化・暮らし・生態系の あらゆる面でそれは避けるべきであった。うまくい かなかった理由は行政と住民が一元化せずバラバラ に取り組んだためで「行政と住民が一体で取り組むべ き」という広松さんの意見(当時、環境課の埋立て担当 係長)を市長がくんでくれた。昭和53年、埋め立て計 画は6ヶ月凍結され、河川浄化計画の作成が決まった。
・実働にあたって住民の参加を呼び込むため、「城堀の うち観光に使っているところ優先で始めるのではな いか」という市民の疑問を払拭し、浄化活動が地域全 体のために行うという市の姿勢を示すため、あえて 観光スポットではなく、堀が埋まってわずかな雨で も溢水するような場所を優先的に整備した。
・懇談会だけですぐ一致団結とはいかなかったが、町 内の堀や川を見て回る現地見学会を始めて、違法建 築物や埋め立てなど問題点さがしを行うフィールド ワークを通じた意識形成が効果的だった。具体的に 違法建築物を撤去するよう地元で取り組み、機械が 入らない狭い場所は人手によるなど、人海戦術での 活動が地区ごとに進められた。56箇所あった不法建 築物は着手までに50箇所が撤去され、城堀が開かれて いった。
・柳川の観光の目玉はこのようにして形成され、多大 な雇用・所得を生み続けている。
【池永千年氏】
・はじめ大鶴農協に行った頃は、農家は高齢化が進ん で嘆き節ばかりだったし、農協も種や肥料の納期を 遅れるなど組合員との信頼関係はなかった。農協も 僅か5軒の畜産(乳牛・肉牛・採卵鶏)で販売額の8割を 占め、残りの農家は山間部の3反農家ばかりだった。
・やる気のある10人のお年寄りを見つけた。何よりも 「流した汗に報いる」成果こそが全てと考え、作る ことと同じくらい、売り先の市況や地域の人々の嗜 好など情報を的確に掴むことを重視した。
・大鶴農協では、少量ながら需要が確実にあるもの (バーやホテル、料亭などで使われる食材など)を中 心に作り、市場で値崩れしないよう心掛けて、全国 35市場に年間70〜80品目を送り込んでいる。
・高齢者ばかりの地域といっても日本中にある。生き がいづくりと経済活動が結びついて、勢いにつなが るには適人適作と総員が参加できるような、自立意 識を地域で持っていくことが何よりも大事だ。大鶴 地域では最初10人の取り組みからスタートして3年目 でゲートボールが消えた。自分で頑張って自分で成 果を得た人が、村の中で仲間を増やしたことが、地 域全体で自立意識が芽生えたきっかけになった。
【今村巧児氏】
・西鉄五条駅はベッドタウンの最寄り駅であるため、 駅前の地域最大手の商業施設が閉店したとき、夜の 帰り道を照らす照明は消えて薄暗く、誰も管理しな い建物は少年非行の温床になりかかっていたことも あった。
・裁判所から競売で取得した当初は、建物を壊して使 おうという考えもあった。しかし、建物の解体費用 だけで3億かかるということと、残存価値が15年ある ということで残してリニューアルする方向を決めた。
・阪神大震災でビル倒壊が続出したため、耐震構造の 基準が大幅に変わり、建物取得後、新しく壁を抜い て外に面した窓を開けたため、代わり補強材が必要 になり、結局13億円の補修工事費を要した。
・それでも2階部分が文化交流・情報発信スペースで 平日は夜まで、休日も終日、人が活動するようにな り、1階が生鮮品中心のスーパーで明るい雰囲気の 店になっているため、閉店前の店舗よりも人が増え たという意見も多く寄せられている。
【杉谷岩彌氏】
・片田舎で診療所を開いたとき、開発と建設と資金は 建設業者、医療サービスは辛島先生(お医者さん)、 客引きは杉谷さん、という3者の役回りをもった。
・患者の多くは医者の前で緊張して「どこが痛いか」さ え忘れてしまう。診療所をもっと身近に感じてもら えるよう、地域の集落を杉谷さんと辛島先生が一緒 に回って「健康講話会」を週に何回か行った。家で あれば地域の人も医者の前で緊張しない。講話会に 村人が10人集まると、その中の2〜3人は必ず何か具合の悪いところが見つかった。そうした人は必ず診療所に来てくれる。杉谷さんは徐々に活動を拡げた。
・こうした活動を通じて、診療所の営業活動という側 面だけでなく、地域のお年寄りの交通や移動の不便 さをいかに解消できるか、という生活の安心をサポ ートするサービスへとつながった。患者を自宅まで 送迎するバスは、医者と患者の医療行為を通じた従属 関係であるとして、当時、認められていなかった移 送サービスを陸運支局に運動して認めらた。これは 全国各地で病院などが行う移送サービスのはしりに なった。
・杉谷さんは今はニコニコ生活村の名誉村長。現在は お生まれになった北九州市の小倉南区郊外でホーム ヘルプサービスの事業を立ち上げている。介護保険 サービスのメニューと料金が一目見て分かるような イラスト解説を加えた「目で見る介護保険」を作成 している(無断転載自由と書かれている)。
【加留部貴之氏】
・地域の中で行政でリードできない分野のサービスが 重要になっている。例えば、村おこしで地域の人々 を導き、勇気づけ、経験と実例をもって示していく 役目は誰にでもできることではない。
・これから先の社会では、個人の想いを発揮できる環 境づくりが重要になる。NPOの役割もそうした活 動を発揮できる受け皿としての役割ではないか。
【世利洋介氏】
・県下の広域圏の中には、NPOやボランティアが行 政組織と協力して有効に機能していくために、地域 がどのような環境をつくっていくべきか検討を行っ ているところもある。
・市町村合併の推進により自治体の一般財源が削減さ れるということがいわれているが、その中で地域の 住民と公共がともに関わっていく機会をいかに作る かが問われている。
●会場からは地域事情に即した質問が出された。
今回のセミナーでは、テーマである“地域経営”について、参加者との意見交換を行いたいと考えていたため、講師の報告のあと、出席者の質疑を交えた討論会を1時間もつことにした。
6人の講師の報告は、いずれも地域事情に即した取り組みであったが、手を挙げて質問していた参加者も様々な地域事情に即したものだったように思える。
以下、出された意見や質問をいくつか挙げてみる。
・「地域に観光客がきて産業として何か生かそうと考 える場合、地域にどんな経済的効果が生まれてくる か、ということを地元の人に分かりやすく伝えて、 みんなで考えるようなことはできないか」
・「中山間地でできる農業のあり方として、とても参 考になった。市場に細分化して出荷する場合、どうい う点を重視したらよいか」
・「市町村合併が進んだ場合、離島が生き残る道筋と してどのようなことができるか、地域で豊かになる 方法をもっと知りたい」
・「NPO法人を設立しているが、今後社会的にどの ように存在意義を示していくべきか模索中である」
・「街中で空いた施設をあえて壊さないという決断も 重要だということが分かった」
・「医療や保健で営業活動を含めたマネジメントは大 事だ。しかし、田舎で医療活動を行う場合、どういう 点を重視したらよいか」など。
今回の学会は、学会といってもあまりカタい雰囲気にならなかったのは、講師の方々のお話がどれも的を得たものだったからだと思う。参加者に反応をきくと「ふつう学会といえば、難しい話に居眠りが定番だが、今日のは楽しく聞けた」とか「参考になった」といったプラス評価のご意見を多くいただいた。
またテーマであった“地域経営”については、今回出された質問や意見をもとに、何か具体的な取り組みに転じていきたい。
(おざきまさとし)
※)10月5日のセミナーのとりまとめ作業を進めて います。興味のある方は当事務所までご一報を。
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