<よかネット>No.51 2001/05
←前  次→


第3セクター研究会・第65回地域ゼミ まちの人に「こころ」と「元気」の産直を!
 浮羽町企画振興課 瀧内宏治さん

●元気の産直。平均週1回やってくるお誘いFAX、Eメール
 福岡県浮羽町は平成7年全国に先駆けてグリーンツーリズム地域に指定された自治体の一つである。指定されたのち、棚田オーナー制度や農家民宿、地域を舞台にした写真撮影会、集落おこしの法人組織づくりなど様々な取り組みを進めてきた。
 しかし、近年は同じような取り組みで活性化を図る地域も増えており、農山村地域同士が競合するようになっている。これを勝ち抜くには、より効果的な情報発信と売り込みを必要とする段階になっている。
 私たちの事務所に浮羽町役場からFAXやメールが届く。内容は町内の元気情報や遊びごとについてのお誘い情報で、これが平均週1回、多いときには週2〜3回。受信時刻が夜11時半という日もある。



 
 内容は浮羽町内で行われる炭焼き、造り酒屋の蔵開き、柿マラソン、もぐら打ちなどの参加のお誘いや、新聞で取りあげられた浮羽町関連の記事が主で、今年1月4日に送られてきたEメールは「2001年農業カレンダー」と書かれている。
 まるで浮羽町の「元気」の産直のようだ。
今回、第3セクター研究会と地域ゼミの合同開催で、「地域経営」という視点からみた浮羽町の取り組みについて勉強することになった。FAXやEメールの発送主である浮羽町役場企画振興課の瀧内宏治さん(本誌48号で棚田オーナー制度の記事でも紹介)にお話しいただいた。お話の要旨をまとめると以下のようになる。
     
●情報は生もの、自分で得ている情報を最も早いかたちで
・瀧内さんは浮羽町で生まれ育ち、高校を卒業して東 京で4年間過ごした。卒業と同時に浮羽町に戻って町 役場に就職し現在に至る。大学在学中は広告業に興 味を持って勉強していた。
・町役場に就職した頃、浮羽町ではグリーンツーリズ ムをテーマに町づくりを進めようとしていた。当時 の高木典雄助役(現九州地方整備局建設専門官)、今村 清係長(現JAにじ職員)が積極的にリードしていた が、間もなく任期を終えて町を離れていった。
・そのとき、地元でも棚田オーナー制度、農村集落で 発足する飲食サービス拠点づくり、集落の人々によ る様々な取り組みが始まりつつあった。そこで、グ リーンツーリズムの旗揚げの時だけでなく、どうや って町役場が継続的にそうした活動をサポートでき るか考え、人々に注目してもらうための情報提供を はじめようとした。
・情報提供について「地元に受け入れ体制ができるま でPRを先走りしてはいかん」とか「いや、まず来 ていただくことが大事だ。過剰宣伝は避け、実際に 都会の人に来てもらってから、その中で問題解決し ていこう」など、様々な意見が地域、町役場の中に みられた。

  ・しかし、実際に浮羽町の農山村に都会の人が訪れて、 地元の人と直接接触する機会をつくると刺激になる ことが多かったので、結局「走りながら改善点は考 えていく」方法で動いている。
・情報発信は、情報の新鮮さ、継続性を大事にしたい という考えから、「町役場の瀧内さんが発信している 情報」ということが一目で分かるようにして始めた。 情報に関する役場への問い合わせも、瀧内さんが回 答している。スピーディーさを発揮するために、あ えて自分の目で見て地域内で得た情報を、課長決裁 を経ない状態で発信している。
・このため、今も時々、イベントなどが予告通りにい かない場合でも急場の対応でカバーできるようにな っている。例えば、10戸程度の農家で企画されたモ チツキ大会にテレビ取材が入る予定だったが、集落 内にご不幸があり突然催行できなくなった。この時 は、別の集落の催しに急遽切り替えるなど、地域内 の行事に詳しかったからこそ、とっさの対応ができ たということもある。
・平成13年2月現在、FAXを200通、Eメールを500通 送っている。送り先は新聞や放送局などマスコミ関 係者、行政関係者、コンサルタントや地域づくりに 関わる人など。
     
●内容はA4判1枚にまとめるのが基本。
・情報はA4判1枚を基本として、簡単な記事とコメ ントを入れて作成している。A4判1枚に納まらな いのはまだ企画が固まっていないとき、という判断 をしている。“旬”など人を引きつける見出しをき ちんと出すようにしている。そしてネタは毎日考え る。
・結局、情報を常に出していると、出すための情報の 仕入れが大事になる。地域内はもちろん、同じグリ ーンツーリズムをテーマに地域づくりを進める宮崎 県の西米良村の担当者などと情報交換をしている。
 

・こうした業務は本来の役場の仕事の「外」という要 素を多分に含んでいる。現状では瀧内さんの情報発 信に係る取り組みは町役場の内部では業務として認 められているが、例えば、夕方以降にFAXやEメ ールを送る作業をもっと簡略化し標準化することが 必要となっている。

     
●「田舎の役場は地域の中で若い職員を一番多く抱えてい ます。地域の売り込みや宣伝は、役場職員の義務ではな いでしょうか」
 今回の研究会の参加者は行政マン、会社役員、大学の先生、地域づくり活動に関わる人、農家など様々であった。質問の中に「情報発信して人に来てもらう効果はどのあたりにあるのか」というものがあった。
 瀧内さんから、例として棚田オーナー制度のケースの説明がなされたが、効果の一つは取り組み自体の話題性やイメージの良さが出来た米の値段に反映された点、そしてもう一つは米以外の農産品について、知り合いになった都市部の人の紹介や宣伝で直接注文が農家に行くようになり、宅配便での販売が急増した、といったことが挙げられた。
 瀧内さんは「町役場で働いて8年目」という。私と同世代である。そこで「なぜそこまで頑張るのですか」と気になっていた点を聞いてみた。すると、返ってきたのが見出しに挙げたような言葉であった。

   たしかに農山村地域において、体力ある若い人が一番多く残っている職場のひとつは自治体である。
「人材もお金も持っている行政が頑張らないと・・・・」と瀧内さんはいう。地道かつ地味な活動だが、自分の町が知られることで少しでも効果がみられたことが何よりも嬉しいという。
 地元の人と会い、これは資源だと確信できるものを、自分の手で情報として流すことは確かに思い入れがないと魅力のあるものにはならない。
 こうした自治体職員の「思い」を今後も地域の行政の中でどう位置づけるか、そして、どのように評価して地域に根付かせるかがこれからの課題だと思われる。
(おざきまさとし)



←前  次→